これは、現在の正式に認められている13種類のビタミンがAから順番に名付けられたわけではないからである。
つまりどういうことか。
結論からいうと、ビタミンのアルファベットは発見された順番によって命名されるほか、研究上の事情によっても決まること、また、その過程で欠番が生じたりすることなどが関係しているのである。
なぜビタミンA~Eの次がビタミンKなのか?
大まかな経緯を整理すると、次のようになる。
| 名称 | 概要 |
|---|---|
| ビタミンA | 最初に発見されたビタミン |
| ビタミンB | その後発見されたもの |
| ビタミンC | 壊血病との関係から研究されたビタミン |
| ビタミンD | くる病との関係から研究されたビタミン |
| ビタミンE | 生殖機能との関係から発見されたビタミン |
| ビタミンF~J | 後に別の物質だと分かったり、ビタミンとして認められなくなったものなど |
| ビタミンK | 血液凝固に関係するビタミン |
つまり、
A → B → C → D → E → F → G → H → I → J → K
という単純な「発見順」ではないのである。
F~Jはどうなった?
ここが面白いところである。
ここには、「ビタミン」という言葉の定義が変化してきたことも関係している。
ビタミン研究が盛んになった20世紀前半には、現在とは異なる基準でさまざまな物質が「ビタミン」と呼ばれていた。
その後、化学構造や生理作用が詳しく分かってくると、

「これはビタミンというより、別の栄養素として分類したほうが適切だ」
ということが分かってきたのである。
その結果、いったん付けられたアルファベットの名称が使われなくなったのである。
過去には「ビタミンF」「ビタミンG」などと呼ばれた物質があった。しかし、その後の研究によって、
- すでに知られているビタミンと同じものだった
- ビタミンとして扱う必要がなくなった
- 別の栄養素として分類された
- 科学的な定義上、ビタミンとは認められなくなった
などの理由から、現在の正式なビタミンの名称としては使われなくなったものがあるのである。
したがって、「F~Jのビタミンが発見されていない」のではなく、「かつてビタミンと呼ばれた物質の中に、現在はその名称が使われなくなったものがある」と考えると分かりやすいであろう。
「K」はなぜKなの?
ビタミンKは少し特殊である。
「K」はドイツ語の”Koagulation”(凝固)に由来する。
ビタミンKは血液凝固に重要な役割を持つことから、発見・研究の過程で「Koagulation」の頭文字であるKが名称として使われるようになった。
英語の coagulation なら「C」になるが、名称が付けられた背景にはドイツ語の影響があったのである。
ちなみに「ビタミンB」にも欠番がある
これも面白いポイントである。
現在ビタミンBには、
- B1
- B2
- B3(ナイアシン)
- B5(パントテン酸)
- B6
- B7(ビオチン)
- B9(葉酸)
- B12
などがあるが、ビタミンの研究が始まった20世紀初頭には、現在のように「B1」「B2」といった区別はなかった。
当時、研究者たちは、食事の中には生命維持に必要な未知の栄養素が存在すると考えており、その中で、脚気を防ぐために必要な水溶性の栄養因子が研究されるようになった。
これが後にビタミンB1(チアミン)として知られる物質につながるのである。
当時は、この栄養因子を「ビタミンB」と考えていたが、研究が進むにつれて、状況が変わる。
「ビタミンB」という1種類の栄養素だと思っていたものを詳しく調べてみると、実は複数の異なる物質が含まれていること(いくつもの栄養素の集合だった)ということが分かってきたのである。
そこで、それぞれを区別するために、番号が付けられていったのである。
つまり、「ビタミンB」という1種類の物質があるわけではなく、発見された複数のビタミン関連物質が「B群」としてまとめられたものである。
そして、現在は一般的にB1、B2、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B6、B7(ビオチン)、B9(葉酸)、B12などと整理されているが、やはり、B4、B8、B10、B11などもビタミンFやビタミンGと同様の理由で、現在の正式なビタミンとしては扱われてはいないのである。
まとめ
こうして見てみると、ビタミンのアルファベットや番号は、「単純に頭から順番に命名したもの」ではなく、まさにビタミン研究の歴史がそのまま残ったもの、と言えるのである。
💡コラム:葉酸はかつて「ビタミンM」と呼ばれていた
現在、葉酸はビタミンB9として知られているが、研究の初期には「ビタミンM」と呼ばれていた時期がある。
1930年代、研究者たちはサルやヒトなどの貧血との関係が疑われていた栄養素を研究していた。その過程で、サルの貧血を改善する作用を持つ因子が見つかり、これを「ビタミンM」と呼ぶようになった。ビタミンMの「M」は、Monkey(サル)に由来するとされている。
そして1940年代には、ほうれん草などの葉からも同様の物質が分離・精製され、folic acid(葉酸)という名称につながっている(ラテン語で「葉」を意味する”folium”に由来)。
現在では葉酸はビタミンB群の一つとして整理され、一般的にビタミンB9と呼ばれている。
このように、ビタミンの名称には研究の歴史が残っており、「ビタミンM」は、かつて別の名前で呼ばれていたことを示すその代表的な興味深いエピソードである。

