スパムメールの「スパム(spam)」は、もともと迷惑メールとは全く関係のない言葉である。
では、由来となったユニークなエピソードを早速見ていこう。
発端は缶詰の「SPAM」

「SPAM」は、1937年に発売されたランチョンミート(豚肉の塩漬けの缶詰)の商品名である。
日本でも沖縄などでよく食べられている。
製造元は、アメリカのホーメルフーズ社(Hormel Foods)。
そんな「SPAM」の缶詰だが、第二次世界大戦中には米軍の配給品として大量に消費された。
安価で日持ちがし、どこにでも手に入るため、戦中・戦後の人々にとっては「またこれか……」とうんざりするほど食卓に並ぶ、「ありがたいけれど、もう見飽きたもの」の代名詞になっていた。
なぜ迷惑メールを「スパム」と呼ぶのか? - 由来を決定づけた「モンティ・パイソン」のコント
きっかけは1970年のイギリスのコメディ番組
Monty Python’s Flying Circus(『空飛ぶモンティ・パイソン』)
の有名なコントである。このコントは「スパムだらけでうんざりする状況」を風刺している。
伝説のスパム・コントの内容
あるカフェに夫婦がやってきてメニューを注文しようとするが、ウェイトレスが読み上げるメニューが異常である。
- 「エッグとスパム」
- 「エッグとベーコンとスパム」
- 「スパムとエッグとスパムとスパム……」
など、どの料理にもスパムがついている。
妻が「スパムは嫌よ!」と拒否しても、ウェイトレスは無視して「スパム、スパム、スパム……」とメニューを連呼。
さらに、店内に座っていたバイキングたちが、
「スパーム、スパム、スパーム、スパム、すてきなスパム、すばらしいスパム、スパーム……♪」
と大声で合唱を始め、会話が成立しなくなるのだ。
つまり、
「同じものが大量に押し寄せてきてうんざりする」
という内容を扱ったコントであった。
このコントによって、「相手の都合を無視して、同じものを大量に送りつけ、本来の会話やメッセージを妨害すること=スパム」と呼ぶ文化の土台ができあがるのである。
インターネットでの意味の変化
1980〜90年代のインターネットが普及し始めた頃、ネット掲示板やチャットでは、
- 同じ投稿を大量に繰り返す
- 無関係な宣伝を大量に流す
という荒らし行為を行うユーザーが現れた。
これを見た他のユーザーたちが、あのコントを思い出して「スパム行為(SPAMing)」と呼び始めたのである。
最初のスパムメール事件
そして1994年、あるアメリカの弁護士夫婦が、大量の宛先に一斉に「永住権(グリーンカード)取得の法律相談」という広告電子メールを送りつける事件が発生した。
これが世界初の「商用大量不特定注文メール」となり、文字通り「受け取り手の迷惑を無視して大量に送りつけられるメール=スパムメール」として世界中に知れ渡ったのである。
その後、
- 広告メール
- 詐欺メール
にも使われるようになり、
現在の「迷惑メール」という意味が定着した。
実は商品名への風評被害だった
皮肉なことに、缶詰のSPAM自体は何も悪くない。
当初、「自社の商品名が迷惑メールの代名詞にされるなんて!」と不快感を示し、裁判も起こしている。
しかし、インターネット利用者が「spam」を迷惑行為の意味で使い始めたため、
メーカーは長年、
「商品名のSPAMと迷惑メールは別物です」
と説明することになったのだ。
最終的には、
「迷惑メールのスパムは小文字(spam)、うちの美味しい缶詰はすべて大文字(SPAM)と表記して区別してね」
という粋な公式声明を出して、現在ではこのユーモアを受け入れいるという。
英語例文
本来の意味
“I bought a can of SPAM at the supermarket.”
(スーパーでスパムの缶詰を買った。)
現在の意味
“My inbox is full of spam emails.”
(受信箱が迷惑メールでいっぱいだ。)
つまり、
「スパムメール」の語源は単に缶詰のSPAMではなく、その缶詰を延々と連呼するコメディ番組のコントにある。
「大量に押し寄せて邪魔をするもの」というイメージが、そのままネット用語になったのである。
